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「フランスにおける個別の産業分野に関する情報について、航空宇宙産業、製造業、IT産業を中心に、巨視的な視点でお伝えします。」


アエロマート トゥールーズ 2024 訪問メモ

2024年12月4,5日の両日、欧州航空機産業の拠点都市、フランス南西部のトゥールーズで開催されたアエロマートトゥールーズ2024を訪問した。アエロマートは、航空宇宙産業の展示会として世界中で開催されており、日本ではアエロマート名古屋が開催されている。

アエロマートトゥールーズは隔年開催。2020年にはコロナ禍の混乱の中で、オンライン開催されたことがまだ記憶に新しい。当時は、パンデミック下で航空需要が激減、航空機産業サプライチェーンが大打撃を受け、整理解雇、一時帰休が広がった。政府や欧州委員会が緊急融資や業界支援パッケージを準備したものの、将来への不透明感が強く、業界としての危機感、そして早期正常化への期待と決意を語る関係者が多かったことが思い起こされる。

会場へは、レンガ造りの街並みが独特のトゥールーズの中心街から車で約30分、トラムで45分。トゥールーズ・ブラニャック空港の北側に位置するコンベンション施設のMEETTである。2020年にオープンした新しい施設で、ここでのアエロマートの開催は2022年に引き続き2回目である。前回の2022年には、主催者発表で31カ国から約4000人が参加。2024年もほぼ同じ参加国数、参加人数となっている。

航空スタートアップ・ブースの拡大

今年の会場の印象は、OEM企業や大手TIER1企業のブース規模が若干、縮小している感がある。航空機受注が順調に伸びる一方、サプライチェーンの生産体制が追い付かず、業績が悪化している影響なのかもしれない。フランスは、地元のOccitanie州をはじめ、隣接のNouvelle Aquitaine 州、さらに西部のBretagne 州、Pays de la Loire州、Centre Val de Loire州、北部のNormandie州、Haut de France州、東部のAuvergne-Rhone-Alpes州、Grand Est州などがブースを構えている。今回は、航空関連のスタートアップ・ブースが設けられ、数十社が小型ブースを並べて出展しており、スタートアップの風が航空機業界にも吹いているのを感じる。

存在感を高めるインド

外国勢では地の利もあり、地元フランス企業に次いでイタリア企業が数多く出展している。また、モロッコも前回に引き続き、航空機産業団体GIMASが率いる企業の出展が目立った。今回、最も特徴的だったのは、インド企業の出展数が前回に比べて大幅に増えていることだ。2024年にインド企業に買収されたフランス企業も以前より大型のブースを構えている。

インドは、モディ首相の主導によるMAKE IN INDIA政策のもと製造業の強化を促進。また航空機分野では、積極的なオフセット戦略により、エアバスサプライチェーンへの参入を果たし、自国の航空機産業の振興を急速に進めている。トゥールーズの航空エンジニア学校SUPEAEROの関係者によると、現在の外国人留学生で最大数を占めるのはインド留学生である。インド航空機産業の勢いを感じさせられる。

注視が必要な中国ビジネス

なお、韓国企業の出展数も、日本企業に匹敵するものがあった。韓国もエアバスとオフセット契約を積極的に進めている国である。一方で中国企業は、思ったよりも出展数が少なく感じた。天津にあるエアバスのFAL関係の仕事があり、必ずしもトゥールーズの展示会に出展するインセンティブは高くない可能性がある。しかし、2010年代には、中国系企業がフランスのTIER2企業を買収するなどの事例もあり、欧州進出の機運があったが、その時代から比べると若干トーンダウンしているように思える。背景には、欧米と中国の関係性に地政学的リスクが生まれていることがあるのかもしれない。

しかし、中国ビジネスについて前向きな話も依然として多い。TIER1のフランスの構造部品メーカーCEOは、投資家向けのコンフェランスで、中国市場も一つの成長市場として注力していく方針を示した。また民生だけでなく、軍事部門でも業績の拡大を企図しているとの発言があり、少し驚かされる。2022年のアエロマートトゥールーズでは、元エアバスの幹部から、中国ビジネスのリスクと今後の見通しについて話を伺う機会があった。この時は、将来のライバルに成長しつつあるコマックを念頭に、中期的な中国ビジネスの縮小の可能性について言及があった。しかし、現状はまだ、そのような状況には至っていないようである。

日本企業も多数参加

日本からは、近年、県のコンソーシアムとして参加を続ける愛知県、また、兵庫県、岐阜県、福岡県、福島県などの地方都市からも、地方公共団体主導で機械加工メーカーを中心に数多くの中小企業が参加していた。大手企業で目を引いたのは、ハイブリッドエンジンの展示をするホンダである。また、フランスに進出済みの東レも出展している。

イタリアやインドなども、地方公共団体の産業振興部門などがブースを設けている例があったが、ブースを構える地方自治体の数では恐らく日本がトップを占めている。韓国は国レベルの公的産業支援組織が出展。インドでは航空機産業が盛んなテランガナ州が独自コンフェランスを開催するなど存在感を示している。韓国企業、インド企業などで他のアジア企業では大企業、中堅企業が中心だが、日本の場合は、中小企業の割合が多いのも特徴的である。

展示会のテーマ

コロナから5年が経過し、表面上は、パンデミックそのものが話題になることはない。しかし、コンフェランスで取り上げられるテーマ、また、アエロマートでの参加者の話題は、パンデミックが残した課題が中心となっている。

すなわち、コンフェランスのテーマは、次の2点に集約されていた。

  • 持続可能な航空機産業(脱炭素化、グリーン航空機)
  • サプライチェーンの強靭化(生産性向上、デジタル化、AI、サイバーセキュリティ)

持続可能な航空機産業

持続可能な航空機産業については、OEM企業の視点、あるいはサプライチェーンや旅行業界の視点などから様々なコンフェランスを開催。エアバス担当副社長の講演では、ゼロエミッションに向けたロードマップの提示と、サプライチェーンへの期待を表明。公式見解として、水素航空機、SAFの推進も含めて、グローバルなアプローチを進めるとともに、サプライチェーン全体で取り組むことの必要性などが強調している。

しかし方向性としては、今年は明らかに対策の重点がSAFにシフトしていることを示唆するものであった。脱炭素化のための航空交通のあり方についてのコンフェランスでは、担当者レベルで、水素航空機が予期できる将来においては実現不可能なこと、SAFに注力せざるを得ないこと、また、SAFについては高価格にならざるを得ず、使用割合の義務付けが年次を追って増加することから、航空チケットに価格転嫁せざるを得ないことである。

また、エアバスの担当者レベルから、欧州委員会の環境関連規制の強化が、中国やインドなどの航空機産業との対抗上、今後、欧州航空機産業の競争力を削ぐリスクがあると警鐘を鳴らしていたことが印象に残る。

サプライチェーンの強靭化

次にサプライチェーンの強靭化については、生産性の向上とリスク管理の問題との二つの側面がある。前者については、生産プロセスなどのオペレーショナル・エクセレンスの課題を取り上げたコンフェランスが複数あった。なお、2022年のアエロマートトゥールーズでは、日本のJETRO主催で日本企業のオペレーショナル・エクセレンスについてコンフェランスを開催し、当方も司会及び基調講演を行った。自動車産業で実現している生産プロセスの最適化、生産性向上は、従来から航空機産業における重要なテーマとなっている。

また、生産性の向上のカギとしてのデジタル化の課題として、サプライチェーン全体での情報の共有化、適切な秘密保護の確保、また、情報の正当性の担保を行うため、あらゆるプレイヤーの主体的な参加、及び関連企業相互の関係性の厳密な契約関係の構築の必要性が語られている。また、今回の展示会では、サプライチェーンの調達体制の効率化に向けたAIソリューションへの言及も目立ち、企業スポンサーのコンフェランスも開催された。

一方で、サプライチェーンの安定的な機能を阻害する要因として、サイバーセキュリティの向上も重要なテーマとして取り上げられている。タレスなど軍事部門の企業だけでなく、デジタル化を進める民生部門においても、サプライチェーンを強靭化する上で、避けて通ることのできない課題である。

以上

2024年12月20日、トゥールーズ(岸川コンサルティング)


Figeac Aero 2024年上半期決算説明会メモ

Figeac Aeroは、航空宇宙産業の金属部品加工を行うフランスの中堅企業である。1989年に現CEOのJean-Claude Maillard氏が創業したファミリー企業。トゥールーズ北部のロット県フィジャックに本社を置く。

アルミ、鉄、チタン、インコネルなど小型、大型部品の加工を行い、売上の90%を航空機の機体及びモーターの部品やコンポーネントが占める。主要プログラムは、A320(19%)、A350(18%)そしてLEAPエンジン(8%)。エアバスグループとの取引が36%にも上るほか、欧州に拠点を置くスピリット社との取引も多い。フランス国内6か所、海外では、モロッコ、チュニジア、ルーマニア、米国、メキシコで6か所の生産拠点を持っている。これに加え、サウジアラビア及び中国でJVに参加しており、合計2か所の生産拠点がある。

同社は、多くの航空機部品メーカーと同様、コロナ禍の航空機産業不況の中で、多額の国保証付き借り入れを実施。2022年には、政府系ファンドTIKHOU CAPITAL向けの第三者割当増資を実施し、財務体質の改善を図った。現在、MAILLARD家の持ち分は53.6%、TIKHOU CAPITAL は27.2%を占めている。当初は、エアバスグループによる買取りや、競合他社との合弁もささやかれたが、MAILLARD氏は独立路線を維持し、政府系ファンドの支援の下、再建を目指すこととなった。

コロナ禍で2020/2021年度の売り上げは、前年度の4億4700万€から2億500€へと半減したものの、その後、次第に経営状況は回復。2023/24年度の売上は3億9700万€に達し、来年度にはコロナ禍前の水準への回復も視野に入っている。今回発表の2024/25年度上半期決算では、売上は前年同期比で10.3%増加で2億€に達し、EBITDAは、前年同期比30%増の2580万€となった。今期のフリーキャッシュフローは2830万€となり、2024年9月末現在の負債額は2億7550万€に低下。引き続き、負債の圧縮が主要な経営目標として掲げられている。

説明会でCEOのマイヤール氏が強調していたのは、フランスの多くの産業では景況が悪化しているが、航空機産業のファンダメンタルズは比較的に強固であることである。エアバスは、サプライチェーンのボトルネックで月間製造機数が目標に達していないが、航空需要は順調に推移している。2024年10月31日時点での2024年10か月の航空需要は、前年同期比較で10.8%、貨物需要では12.2%の伸びを示した。エアバスとボーイングを合わせて、今後、20年間で約42000機の需要が見込まれている。

同社の企業再編に関する今後の方針について聞かれ、マイヤール氏は、当面は、企業買収などは検討しておらず、現状の生産拠点で設備投資を行うことで生産体制の強化を図ると回答している。

同社のこれまでの方針の柱の一つは、できるだけ顧客の近くで生産を行うことであった。この方針に従い、エアバスグループやサフラングループの製造拠点の近辺で事業を行う企業を買収したり、あるいは、新たに製造拠点を設けたりしてきた。国内ではエアバスグループの工場があるMEAULTEやSaint Nazaireに拠点を設けており、モロッコやチュニジアの拠点も、エアバスグループやサフランの工場が立地したことに伴い、製造拠点を確保したものである。

もう一つの柱は、オフセット契約の確保である。中国及びサウジアラビアのJVは、前者は天津にあるエアバスのFAL(最終組立工場)関連の事業で、中国市場のオフセット契約によるサプライチェーンへの参入となっている。また、サウジアラビアのJVも同様で、同国がダッソーの戦闘機ラッファルを調達したことに伴うオフセット契約関連である。また、マイヤール氏は、中国市場で軍事部門の事業も計画されていることに言及していた。

同社の発注残は、2024年9月30日末現在で、47億€となっており、新規発注のほか、単価の改善の効果も出ているとのことである。

2024年12月12日、トゥールーズ(岸川コンサルティング)